Nさんが親から相続し自らも居住していた実家は、築40年を超えた一軒家。新たに建替えようと建築会社に相談したところ、「再建築不可」との結果が...。仕方なく、別の場所に建物を建て、引越しすることになりましたが、今まで住んでいた実家の取り扱いに悩んでいた相談者Nさん。
相談に来たときは、「永遠に建替えられない家を持っていなければならないなんて、不安です。管理の費用や固定資産税だって馬鹿にならない。売却したくて不動産屋に相談しても相手にしてもらえないのです。」とのこと。
建築基準法による道路の接道要件が満たされていない物件の事で、
(1)接道していない
(2)接道幅員が2未満
である土地です。
(1)の場合は、他人の土地の一部を通行させてもらい、自分の土地を利用するので、通行させてもらう土地の所有者から通行の承諾を受ける必要があります。
(2)の場合は、接道幅員を拡幅するために、隣地土地の一部を譲渡してもらったり、土地の交換を認めてもらう必要があり、今回は、(2)の事例で、写真の通り、道路に接道する間口幅員が約1.9ですが、1途中の幅員は2.7粒、そして2家の入口が1.6という状況でした。
(1)(2)のどちらの場合も、隣地所有者との人間関係が友好的であることが大前提なのですが、今回の場合は、友好的ではありませんでした。
聞けば、隣接地所有者Iさんと犬猿の仲で、ほとんど口もきいていないとのこと。特に、相談者の親と隣接地所有者は、上司部下の関係で、積年の様々な想いが双方にあり、直接対話ができる状態ではありませんでした。
隣人との関係が推察されるような文面
友好的な関係であれば、コンサルティング業務として接道幅員を調整する作業のお手伝いをするのですが、既に、別地に自宅を新築しているという状況を踏まえ、弊社で対象地を取得させて頂くことにしました。弊社が取得しIさんと初めて面談した時に感じたのは「これはNさんと噛み合わないな」ということでした。Nさんは寡黙なタイプで内に秘めてしまう性格で、土地の知識はありませんでしたが、Iさんはハッキリものを言うタイプで土地の知識は豊富でした。どちらが良い悪いではなく、それぞれの特性です。とは言え、相反する関係では、冷静な話し合いができなくても仕方ないと思えました。
先ずは、Iさんの意見を傾聴したところ、IさんがNさんの土地の一部を通行できることが書面で取り纏めていないことが不安のようでした。自分の不利な事や不安な事をストレートに話して頂けるということは、悪意があるとも思えません。ですから、私も再建築不可の状況を説明し、その不安を取り除くことを条件に、再建築可能となるように、土地の交換を願い出たところ、快諾を頂きました。(下記図のピンク色の土地と緑色の土地を交換しました)交換ですから、代金の支払い等はありませんが、交換作業を行うための測量費用は弊社が負担しました。
Iさんにご説明する時に使用した測量図
無事に、土地交換の作業を開始できましたが、測量するためには、双方の土地の隣地所有者から境界承諾を得ることや、接道道路の管理者(行政)などの立ち合いは、とても時間が掛かります。測量後に土地を分筆、交換、合筆するため、約15か月掛かりました。
先に書きましたが、隣地所有者と有効な関係を築いていたとしても、これだけの長期間の作業や、土地の分割合筆などの専門的な手続きを、一般の方が取り仕切って行うことは困難です。そして、隣接地所有者と友好関係が築かれていなければ、不可能な作業ですので、専門家が取得することでしか、解決するこができない事例でした。
この事例については、令和元年の不動産コンサルティングマスター事例発表会不動産エバリューション部門にて、優秀賞をいただきました。