相続と不動産はとても緊密です。それは一般人の場合、自宅不動産が資産の過半を占めるため、その資産の取り扱いをめぐって、以下のような課題によってトラブルに発展し、結果、換金することができず、負動産になってしまう可能性があるからです。

財産分与の基準となる
不動産の評価方法が複数ある

不動産価格の謎でお伝えした通り、不動産の評価方法は複数存在します。相続を税理士が取り扱うと、不動産の評価は相続税評価に基づいて評価します。しかし、財産の分割協議では、市場価格を基準とします。とはいえ、市場価格についても、実際に売却しなければ確定した価格とはなりません。
特に、片方が不動産を使用し、他方は不動産の持ち分に応じた金銭を受け取るという換価分割を選択する時は、使用者は評価を低く、他方は評価を高くという心理が働き、トラブルに発展していきます。

物理的に分割できない

不動産は、土地であれば分筆し土地を物理的に分割することはできますが、建物は原則、分断することができません。ですから、共有すると共有者の考えや資金状況によって、協議が整わず、取り扱いが困難になることがあります。当然相続人の誰かひとりが使用していると、不公平感が生じ、トラブルに発展していきます。

相続人各自の心情的な基準が異なる

特に、居住用として長い間使用されてきた不動産は、その物件に対する想い入れが各人で異なり、特に、先祖代々の不動産の場合は、処分か否かをめぐってトラブルに発展していくことがあります。

建築基準法に適応していない

一般の方々は、通常の利用に影響がない限り、法律に対する意識はありません。よって、過去の法律改定による既存不適格や、何かしらの理由によって違法建築になっている事に気づくのは稀です。いざ売却しようと調査した時に、売却ができない、又は対象不動産の建物を建て替えられないなどのトラブルを初めて知り、困惑する事になります。

需要がない地域や用途である

特に、過疎地域や畑・山林そしてリゾート物件がその対象です。相続人の中で利用する人が居れば、大きな問題にならないのですが、誰も使用する人が居ない。となると換金することになりますが、社会的に需要が無いと処分することができず、その管理コストの負担をめぐってトラブルに発展していきます。

最近多い、負動産の一つに過大土地があります。以前は100坪ほどの土地に建物を建てた一戸建てが多かったのですが、現在では、100坪の土地に家を建てると、総額一億円を超えることになります。そうすると、購入者が極端に減るため、20坪×5世帯というように、小さく区分する必要があります。そのため、戸建て建築会社が取得することになり、周辺の取引単価に順じた価格での取引ができなくなります。
単純に横割り分割できれば良いのですが、奥行きがあり、一部の土地を敷地延長(旗竿地)にしたり、一部開発道路を入れたりすると、土地販売面積が減少し、売却価格が減少します。
また、必要以上に大きな建物は、一般消費者が中古物件として再利用することが難しいため、流通しにくく、解体費が1,000万円を超えることもあり、更に売却価格が下がります。

不動産神話への囚われ

過去の高度成長期に起こった、不動産神話。国土のうち利用できる土地は限られるために、不動産価格(特に土地)が上昇する時代を経験しているため、今後も不動産価格が上昇する期待を拭えずに、不動産を手放すことを決断できない人が多くいます。この囚われが価値観の違いと相まって、トラブルに発展していきます。

少子高齢化の時代に、需要が高まるのは特定の地域であり、その他の土地は需要が減って行くのは当然だと考えます。また、2022年には、次項でご説明する生産緑地問題が懸念されていますので、さらなる土地価格の下落が考えられます。

取り扱いなれていない金額

不動産は通常の生活では取り扱いしない桁の金額を取り扱わなければなりません。当然、慎重に行動することになりますが、過剰に不安になることもあります。この過剰な不安が疑心暗鬼に繋がり、トラブルに発展していきます。